
ワインのはなし · ナチュラルワイン
ナチュラルワインとは?オーガニックとの違い・味わいの特徴・選び方を丁寧に解説
ナチュラルワインは、健全なぶどうと土地の風土を、余計な添加やろ過に頼らずグラスへ届ける造り方です。オーガニック認証や酸化防止剤無添加とは同じではなく、選び方と保管で状態が決まります。
この記事の要点
ナチュラルワインは、有機農法やビオディナミで育てた健全なぶどうを原料とし、人工的な培養酵母や添加物を用いず、人為的な介入を極限まで抑えて醸造されるワインの総称です。
オーガニックワインが法律に基づくぶどうの栽培基準を定めているのに対し、ナチュラルワインは栽培だけでなく、醸造工程での非介入(添加物やろ過の制限)まで貫く哲学に基づいています。
酸化防止剤(亜硫酸)は、完全無添加(サン・スフル)か、瓶詰め時の極微量にとどめられます。酵母の発酵で自然に微量の亜硫酸が生じるため、人為的添加がゼロでも成分が完全にゼロになるわけではありません。
透明度を高めるフィルターろ過や清澄を行わないものが多く、土地の個性(テロワール)やぶどう本来の果実味、出汁のような豊かな旨味が残りやすいのが特徴です。
添加物が少ないため温度変化に敏感です。常温放置を避け、14〜16℃の冷暗所(ワインセラー、または届いた直後は冷蔵庫の野菜室)で保管し、温度管理を徹底している輸入者や店から買うことが失敗を防ぎます。
ナチュラルワイン(ヴァン・ナチュール)とは?
ナチュラルワインとは、化学農薬や化学肥料を使わずに育てた健全なぶどうを用い、醸造過程でも人工的な添加物や人為的な操作を極限まで避けて造られたワインを指します。英語の Natural Wine、フランス語の Vin Nature(ヴァン・ナチュール)、親しみを込めた「ナチュール」も、基本的には同じ考え方を指しています。
長らくワイン産業では、世界中で同じ規格の味を再現するために、培養酵母、香りを強調する酵素、多めの酸化防止剤、精密フィルターが広く使われてきました。1970年代から1980年代にかけて、フランス・ボジョレーの醸造学者ジュール・ショヴェやマルセル・ラピエールらがこれに異を唱え、ぶどう本来の生命力と土地の気候・風土(テロワール)をそのまま表現する造りへ戻ろうとしました。これが、いまのナチュラルワインの原点です。
本質は流行のスタイルではなく、自然の摂理と向き合い、造り手が余計な化粧を施さずに誠実に瓶詰めするという哲学にあります。手を加えすぎないからこそ、グラスの中に果実味と土地の風味が残りやすいのです。
オーガニック・ビオディナミ・酸化防止剤無添加との違い
売り場には「オーガニック」「ビオ」「自然派」「酸化防止剤無添加」が並び、混同されがちです。対象が何かを分けると、ナチュラルワインの位置がはっきりします。
ナチュラルワインの栽培は有機やビオディナミなどの自然農法。醸造は天然の野生酵母を使い、添加物や技術的介入を極限まで外します。酸化防止剤は完全無添加、または瓶詰時の極微量。公的制度(ヴァン・メトード・ナチュールなど)は一部にありますが、基本は哲学です。
オーガニックワイン(ビオ)は、化学農薬・除草剤・化学肥料を使わない有機栽培が条件です。醸造では培養酵母や認可された添加物が使え、規定上限内の亜硫酸添加も認められます。EUのユーロリーフ、日本の有機JASなどの認証があります。
ビオディナミワインは、ルドルフ・シュタイナーが1924年に提唱した農業暦や調合剤(プレパラシオン)を使う農法です。土地の力を活かす自然な醸造を推奨し、認証基準で亜硫酸の上限も厳しく制限されます。Demeter や Biodyvin などの認証があります。
酸化防止剤無添加ワインは、亜硫酸塩を人為的に加えていない表示です。原料が有機とは限らず、慣行農法のぶどうを工業的に清澄・ろ過しているものもあります。ナチュラルワインが目指す「畑からボトルまでの全体」とは別の話です。
オーガニック認証は、畑の基準を示すもので、醸造が無添加でナチュラルである保証ではありません。移行期間(通常3年以上)を経て認定されたラベルは栽培の信頼材料になりますが、セラーで何をしたかは別に見る必要があります。
醸造工程から見る3つの特徴
ナチュラルワインを隔てるのは、醸造所での姿勢です。一般的な造りが「狙った味を安定して再現する」のに対し、こちらは「ぶどうの力を信じ、人の手を必要最小限にする」ほうへ振り切ります。
1つ目は、野生酵母(自生酵母)による自然発酵です。一般的なワインの多くは、発酵を確実に進め、香りを安定させるために純粋培養されたセレクション酵母を加えます。ナチュラルワインはそれを使わず、果皮や蔵の空気にいる酵母だけで発酵させます。菌が順に仕事をするため時間と観察が要りますが、画一的ではない香りと旨味が出やすくなります。
2つ目は、人の介入と添加物を極小にすることです。補糖、補酸、酵素、タンニン粉末などは法律上認められていることがありますが、ナチュラルワインの造り手はこうした調整をしません。畑で健全な果実を手作業で選ぶことが前提になります。
3つ目は、無濾過・無清澄です。発酵直後のワインには酵母の澱や果肉の微細な成分が残り、やや濁っています。一般的なワインは卵白やベントナイトで濁りを落とし、精密フィルターでこします。細かく通すほど風味や旨味も落ちます。ナチュラルワインは重力で沈むのを待ち、無濾過、または粗いこしかたで瓶詰めすることが多いです。底の澱や濁りは、エキスが残っている印です。
酸化防止剤(亜硫酸)が完全にゼロではない理由
ぶどう果汁が酵母で発酵するとき、代謝の結果として微量の亜硫酸(おおよそ5〜15mg/L前後と言われる)が自然にできます。人が一切加えていないワイン(フランス語でサン・スフル)でも、分析すると微量の亜硫酸が検出されます。
亜硫酸には、酸素による劣化を抑える働きと、酢酸菌などの雑菌を抑える働きがあります。長い輸送や温度変化から健全性を守るため、瓶詰め直前に極微量だけ加える造り手もいます。ヴァン・メトード・ナチュールでは、瓶詰め時の総亜硫酸30mg/L以下などの基準があります。通常のワインの数分の一です。
完全無添加であることだけが善なのではありません。土地の味を損なわず、健全な状態で食卓へ届けるための判断が、添加の有無より先にあります。
味わいの特徴と、「二日酔いしにくい」という誤解
一口で「これまでのワインと違う」と感じる人が多いのは、工業的な均一感の逆側にあるからです。愛好家やソムリエが言う「出汁感」は、培養酵母の華やかな香りに頼らず、ろ過で旨味が削られていないときに出る、角の取れた柔らかさです。ぶどうの果実味、土のミネラル、野生酵母の発酵が重なり、喉を通ったあとにすっと入る感じが残ります。
抜栓した瞬間から空気で表情が変わり、2日目、3日目に旨味の輪郭が立つこともあります。生きているワインならではの変化です。
「酸化防止剤がないから二日酔いしない、頭痛が起きない」は、事実と誇張が混ざっています。二日酔いの主因はアルコール(エタノール)と、その分解でできるアセトアルデヒドです。ナチュラルワインの度数も普通に11〜14%程度あるので、飲みすぎれば例外なく翌日に残ります。
それでも翌朝が軽いと感じる理由はあります。亜硫酸に敏感な人は、添加が極小だと喉の不快が出にくい。補糖や香りの酵素がない分、飲み疲れが少ないと感じる人もいます。味わいを急がず、水を交えて飲むペースになりやすい、という飲み方の違いもあります。
たくさん飲んでも二日酔いしない魔法の飲み物ではありません。純粋な醸造物として、適正な量をゆっくり楽しむことが大切です。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児や乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。
公的認証と、認証がない作り手
長く「法律上の定義がない」と言われてきましたが、透明性のための制度は増えています。
フランスでは、INAOの協力のもと2020年に Vin Méthode Nature(ヴァン・メトード・ナチュール)が正式運用されました。有機またはビオディナミ認証があること、収穫は100%手摘み、自生酵母のみ、醸造添加物なし、逆浸透や加熱殺菌や精密フィルターなど組織を変える介入をしないこと、亜硫酸は「完全無添加」か「瓶詰め時の総亜硫酸30mg/L以下」のどちらかを明示すること、といった基準があります。国家の枠で「ナチュラル方式」を名乗る透明性が、初めて置かれた例です。
イタリアの ViniVeri は、畑の農薬不使用に加え、セラーでの人為的な温度調整の制限や、SO2上限(辛口で80mg/L以下)を自主的に定めています。RAW WINE は、マスター・オブ・ワインのイザベル・レジュロンが始めた国際的なフェアで、出展ワインの亜硫酸や農法を公開する情報開示を掲げています。
認証ラベルがないからナチュラルではない、とは言えません。ヨーロッパの小規模な家族経営には、何十年も無農薬・無添加を続けながら、審査費用や書類を嫌って認証を取らない作り手がいます。マークは目安です。どの土地で、どんな哲学で土と向き合っているかのほうが、ボトルの中身に近いです。
保管と、美味しく飲むためのポイント
酸化防止剤が少なく、フィルターもかけていないため、一般的なワインより環境の変化に弱いです。
最大の敵は高温と急な温度変化です。温まると残った酵母が再発酵し、コルクが押し上がったり、液漏れや酸化が起きたりします。理想は12〜16℃、湿度60%以上のセラーです。セラーがなければ冷蔵庫の野菜室が近いです。通常の冷蔵室(約2〜5℃)は冷えすぎて香りが閉じがちで、野菜室(約6〜8℃)のほうがやや高い温度を保ちます。新聞紙や緩衝材で包むと、冷気と光と振動を和らげられます。夏の部屋、コンロの近く、直射日光の窓辺は避けてください。
届いた直後は輸送の揺れで味わいが一時的に崩れていることがあります。すぐに開けず、立てたまま3日〜1週間ほど休ませると、澱が底に落ち着き、質感が戻ることがあります。
冷やしすぎると香りと旨味が閉じます。白やオレンジは10〜12℃前後、赤は14〜16℃前後から始めると、温度が上がるにつれて開きを楽しめます。抜栓直後に硫黄やゆで卵のような香りがするときは、還元臭であることが多いです。大きなグラスで回すか、30分ほど置くと果実が出てきます。当日だけでなく、2日目・3日目に旨味が深まるのも魅力です。
失敗しない選び方
世界は広く、酸や濁りに戸惑う人もいます。初めてでも美味しい1本に近づくための見方は3つです。
いちばん大事なのは、造り手から手元までの温度管理です。赤道を越える船や国内倉庫で高温にさらされると、保護の薄いワインは熱で傷みます。定温のリーファーコンテナで輸入し、国内の保管と発送でも温度を守っている輸入者や酒販店から買うことが、状態の良い1本の条件です。
裏ラベルや説明文も目安になります。Vin Méthode Nature はフランスのナチュラル方式の認証。Sans Soufre は人為的な亜硫酸無添加。Non Filtré は無濾過の瓶詰めです。絵の流行だけで選ばず、どの国のどの産地で、誰がどんな想いで造っているかが書いてあるかを見てください。
数千ヘクタールの工業的な大量生産とは違い、数ヘクタールで草を取り、一房ずつ選ぶ小規模生産者のワインには、土と手仕事が残りやすいです。流行の銘柄より、土地、手仕事、取引の透明性を基準に、小規模な作り手と信頼関係のある店を通すと、誠実な1本に出会いやすくなります。
よくある質問
開栓後は何日くらい持ちますか。酸化防止剤が少ないので早く傷むと思われがちですが、健全なぶどうの生命力があれば、冷蔵庫やセラーで密栓すれば3日〜1週間ほど楽しめることがあります。2日目や3日目のほうが角が取れて旨味が開くことも珍しくありません。
底の澱や濁りは飲んでも大丈夫ですか。問題ありません。精密ろ過や化学的な清澄をしていないため、酵母やポリフェノール、酒石が残ります。コクの一部です。
抜栓直後の硫黄やゆで卵の香りは劣化ですか。多くの場合は還元臭です。空気に触れると消えていきます。グラスで回すか、30分ほど置くと果実の香りが立ちます。
オレンジワインと同じ意味ですか。ちがいます。オレンジワインは、白ぶどうの果皮や種を果汁と漬けて醸す製法の名前です。ナチュラルワインの造り手が好んで造る例は多いですが、工業的なオレンジワインもあります。
セラーがない場合の保管は、冷蔵庫の野菜室がおすすめです。新聞紙や緩衝材で包んで寝かせると、冷気と光と振動を和らげられます。常温放置は熱劣化の原因になるので避けてください。
土地と手仕事が宿る1杯
ナチュラルワインは、一過性の流行語ではありません。農薬や工業的な添加で味を揃えず、その土地の土壌とぶどうの生命力をグラスへ届ける、造り手の生き方です。
オーガニックが畑の健全な栽培基準を定め、ビオディナミが自然と暦の調和を目指すなら、ナチュラルワインはさらに醸造の現場まで、ごまかしの少ない透明な造りを追求します。だからボトルの中には、その年の太陽と雨、土、そして朝から晩まで畑にいる人の手仕事が残ります。
かすかな濁りや、抜栓直後の驚く香りに出会うこともあるでしょう。欠陥として捨てず、自然が生んだ一度きりの表情として受け取るところに、飲む歓びがあります。
お酒は20歳になってから。健康に配慮し、適正飲酒を心がけましょう。